【完】『そろばん隊士』幕末編
話を戻す。
土方は岸島を連れ、上立売の守護屋敷の長屋にいた山本覚馬を訪ねた。
一通り土方から話を聞いた山本であったが、
「新式銃は金がかかりますぞ」
と、佐久間塾仕込みの俊才でもある山本は答えた。
「岸島くん、例の帳面を」
「はっ」
岸島が携えていたのは例の請け払い帳の見直しで出た余剰金の帳面である。
ちなみに。
この時期、山本はすでに白そこひ(白内障)を患い始めており、口入屋の大垣屋清八から遣わされた時栄という女中が、目の代わりをつとめている。
「では読み上げます」
若々しい時栄の声で金額が読み上げられてゆくと、
「…思ったよりあるな」
山本は呟いた。
しかし、と山本は続けて、
「今少し足りない。何挺揃えられるおつもりか」
と訊き、
「取り敢えず新式銃はいくつか種類がある。まずそこを決めてからでも良かろう」
という話となった。