【完】『そろばん隊士』幕末編
◆4◆

屯所へ戻ると、

「おーい、そこのそろばん侍」

とからかうように声をかけてきたのは、原田左之助という八番隊の組長である。

「これは原田どの」

と岸島は、頭を下げてやり過ごそうとした。

が。

行く手を遮った。

「あのな岸島くん、実は少しばかり…金子を用立ててもらいたいのだ」

小声で原田は、どうも金策に来たらしい。

「それがしは新参、その用向きは河合どのか副長どのに申し上げられるがよかろうかと存ずる」

岸島は答えた。

確かに勘定方とはいえ、新参の平隊士に頼むよりは、勘定方頭取の河合か、副長の土方に頼むほうが借りやすいはずであろう。

「しかしだな…頼みづらいのだ」

なんとかならぬか、と原田は拝んだ。

「…して、金子の用向きは?」

岸島は渋い顔をした。

「実はおまさに新しい着物を買ってやると約束をしてしまったのでな」

おまさとは原田の妻で、娘のおしげともども屯所へ時折やってくるので、岸島も一度だけだが見かけたことはある。



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