【完】『そろばん隊士』幕末編

いっぽうで。

八番隊に組み入れられたことで、市中見回りの役目もせねばならない。

かつて恐れられた段だら縞の浅黄羽織は、この時期になると隊士でも着ている者がほとんどなかった。

「だいたいあの羽織、大丸で仕立ててもらうのにどれほど入り用か知っておる隊士も少なかろう」

岸島はあれが一枚だいたい一両弱かかることを知っている。

しかも大丸といえば老舗で物がよい。

値もそれなりに張る。

そのため、

「袖印をつけてあれば黒羽織でもよかろう」

というのが、この頃の組の風潮ですらあった。

質素な木綿の羽織であった岸島にくらべ、芦名は出が出石の商家であったからか金回りは悪くなかったらしく、友禅の裏地がついた、芦名家の三つ引き両の紋が打たれた御召の羽織を使っていた。



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