【完】『そろばん隊士』幕末編
酒井兵庫が来た。
「藤堂隊長、お呼びでございますか」
「ちと、そろばんの腕の検分を頼みたいのだが」
「そろばん、でございますか?」
「勘定方なら、多少はそろばんの腕の良し悪しも分かろう」
藤堂はそろばんがまるで苦手であったらしい。
「…で、どなたの腕を?」
「岸島くんをこれへ」
と呼び出されたのは、旅装をした中肉の武士である。
「丹後宮津、松平伯耆守元家来、岸島芳太郎と申します」
松平伯耆守といえば老中として上洛中の殿様である。
「宮津さまのご家中か」
「いかにも」
「して、家中でのお役目は?」
「勘定方、大坂蔵屋敷詰にございます」
懐から出したのは小さな五つ玉のそろばんである。