【完】『そろばん隊士』幕末編
◆7◆
「なれど逃亡とはちと違うように見受けられますが」
「士道不覚悟、だ」
土方の言葉には隙がない。
しかしこの隙のなさが、あらぬ敵を産み出してきたのもまた事実である。
が。
岸島は特に敵意を感じなかった。
この辺りが正規の武士から隊士になった者の所以なのであろう。
「では」
御用改である、と岸島は呼ばわり中へ入った。
いかに俗世と無縁の遊廓といえども、御用改となると話は別である。
「では改めさせていただく」
岸島の物腰は低い。
新撰組には珍しく折目の正しいたたずまいであったからこそ、赤座のような撃剣一本槍な隊士とは合わなかったのかも分からない。