【完】『そろばん隊士』幕末編
◆10◆
おれはな、て原田は膝を立ててから、
「あんたが牛込の頃から変わっちまったのが嫌なだけなんだよ」
少なくとも試衛館の頃には女にだらしないということはなかった、と言うのである。
「岸島くんは?」
「それがしは江戸表のことは存じませぬが、少なくともわれわれは局長のために不逞の浪士と斬り結んでおるわけではございませぬ」
と続けてから、
「帝も会津さまも京の民の平穏を願い、われらに治安の維持の一翼を担うよう仰せであると存じます」
つまりその叡慮に叶うようつとめるのが使命である、というようなことを岸島は述べた。
「そのためにそれがしはそろばんを使い、原田どのは日々の見回りに励んでおられます。──局長、われらは局長の手下ではございませぬ」
「なるほど」
「仮にそれが局中の法度に背くとあらば、その時はその時でただ腹を切るまでのことにございますが」
「…なるほど岸島くんの申し条、もっともである」
「ただ伊東どのが己が信条を押し付けんとするのもいかがとは存じますゆえ、ご無礼を働き申した」
岸島は言い切った。