【完】『そろばん隊士』幕末編
仮に伊東が隊を割るようなことがあれば、新撰組が弱体化するのは目に見えている。
「それゆえ、伊東どのには少し隊の和というものを慮っていただきとう、局長よりご下命いただきたく存じまする」
岸島の意見は正論といえば正論であった。
が。
正論は不思議なもので正しくあればあるほど通りづらい。
「なるほど、承知した」
と近藤は納得したようであるが、これでそう動くかというと、弁の立つ伊東の前で口下手な近藤が説き伏せられるかどうかとなると、
「こういうときに山南さんがいたなら、説き伏せるぐらい苦はなかったかも知れんがなぁ」
原田は呟いた。
ちなみに山南というのは山南敬助のことで、文武に秀でた幹部であったが、女と駆け落ちした科をかぶって自刃している。
「おれはあのとき切腹はよせと言ったんだが、しめしがつかんと近藤さんが言って腹を切らせた」
原田は帰途、岸島に語って聞かせた。