【完】『そろばん隊士』幕末編
するとそのとき。
人影が廊下で動いて、
「これは下手をすると、山崎くんよりそろばんが上手いかも知れんな」
と、後ろから土方歳三が覗き込む。
ちなみに山崎とは今は監察の山崎丞のことをさす。
「…副長」
藤堂が下座に膝を滑らせた。
「いや、いい」
それより、と土方は、
「われわれの中でそろばんが出来る者は少ない。今も河合くんと酒井くんが主だが、まだ手薄だ。──岸島くん、君は働けるか」
「もとより、お役に立てるならば」
「よし、決まりだな」
帳面の岸島の名の上に朱で丸がつけられた。