【完】『そろばん隊士』幕末編
◆12◆
「そもそも…セイミとは何だ?」
「セイミ学、すなわち緒方塾で教える最新の学問の一つでござるよ」
山本がこの手の話題に耳ざといのには、妹の八重と結婚した川崎尚之助という、緒方塾の出の洋学者からの情報が主である。
「緒方塾、か…確か手塚さんも緒方塾であったな」
土方の頭に浮かんだのは、近藤の父の周斎の代からの付き合いになる手塚良仙のことであったが、ここでは本題ではない。
「どうやら長州の新しい軍師は、その緒方塾で秀才と呼ばれた者であると聞いておる」
川崎からの知らせによると、その軍師により長州の軍制は大きく変わり、洋式の最新型の訓練を経た軍隊に変わったというのである。
「仮に山本さん、その新式の軍でご公儀が敗れるような話になったらば、どうなるというのだ?」
山本はしばし沈思した。
が、口を開いた。
「仮に長州が勝つようなことがあれば…滅びましょうな」
「では手はないのか?」
土方は食い下がった。