【完】『そろばん隊士』幕末編
◆13◆
こうしたなか。
長州軍が小倉城を奪い、奪われた小倉藩小笠原家は豊津の香春へと転進。
周防大島で戦いを繰り広げていた幕府軍も惨敗の上、退却を余儀なくされ、次第に戦況は悪化の一途をたどりつつあった。
他方で。
将軍の突然の薨去、という事態に、次期の将軍を誰にするかで意見は割れていた。
政事総裁の一橋刑部卿慶喜、将軍の後見であった田安家の慶頼、さらに家茂のおじで津山松平家の斉民…と三人の候補が上がり、誰に絞るかを大老の酒井雅楽頭が決断できずにいる…という現況である。
「通常であれば血筋がものを言うが、今は非常のときである」
一橋刑部卿に頼むのが最善ではないか、というのが老中の脇坂淡路守をはじめ、幕府の幹部のおおかた一致した意見であったが、
「あの御仁はいささか才はあるが」
と会津侯や越前侯あたりは一橋の一誠のなさを危惧していたようで、
「あれならまだ田安どのが良い」
という異論もあった。