【完】『そろばん隊士』幕末編
「確かに、浪士組の頃なぞ近藤さんも土方さんもみな車座で、上下隔たりなくみなで議論を重ねたものよ」
尾関が遠い目をした。
「岸島さんは確か池田屋のあとの入隊でしたな」
「いかにも」
島田が酒を注ぐと、
「池田屋のあと会津様から褒美を頂戴し、禁門の戦のあとはご公儀からお褒めも頂戴したが、あのあたりから隊は変わった」
島田が言うには、
「近藤さんも土方さんも、あのあとは身なりも急に直参のような縮緬羽織になったし、金回りも変わって女まで囲うようになった」
というのである。
「しかし、車座で議論を戦わせていたのが、まるで殿様に意見するように下座でわれらは言わねばならなくなった」
尾関がうなずいた。
「われらは部下ではない、同志だ」
岸島は相槌を打ち、
「もっともにござる」
と言った。
「今の、あの伊東や加納がいるままでは隊はご奉公に障る。岸島さん、どう思う」
酒の回った島田の眼は鋭かった。