【完】『そろばん隊士』幕末編
◆15◆
岸島は島田に真っ向から論ずるのを避けるように、
「確かに島田どのの卓見、それがし感服いたしましたが、何より大事はご奉公と存じますゆえ、まずはわれら一同、与えられた役儀をつとめ果たすが肝要と存じまする」
と言い、島田に酒をすすめた。
「岸島さん、おれはあんたを気に入った。おれは気に入った者は助ける。だから心配せんでいい」
「かたじけなく存じまする」
岸島の折り目正しさは、酒が入っても変わっていなかったようであった。
尾関も、
「おれは岸島さんをただのそろばんの出来る武士だとだけ見ていたが、何か誤解をしていたようだ」
そう言うと酒を岸島にすすめた。
「御酒、ありがたく頂戴いたす」
杯を干すと、
「われら小荷駄隊が動かねば、いかに新撰組といえど戦の表道具は揃えられぬ。われらはわれらなりに、ご奉公に励もうぞ」
この会席で、岸島の懸念は消えたといっていい。