【完】『そろばん隊士』幕末編
◆16◆
慶応三年も春を過ぎた頃、それまで新撰組と会津藩をつなぐ役割を果たしていた山本覚馬の視力がさらに悪化し、ついにほとんど見えないようになった。
それを機に。
担当が山本から小野権之丞という公用方に変わった。
小野は洋学に長じた山本とは明らかに違い、どちらかというと洋学には疎い。
しかし。
小野は食い道楽で、洛中の飯屋で名だたるところはほぼ小野は行ったことがあり、しかも下情に明るいという決定的な強みがあった。
それだけに、
「長州や土佐がどの店を根城にしておるかなぞ、手に取るように分かる」
と言い切り、事実三条の升屋や近江屋といった商家が根城であることを、小野は早々と掴んでいたのである。