【完】『そろばん隊士』幕末編
◆19◆
しばらく、過ぎた。
一橋刑部卿の将軍就任から丸一年ばかりが過ぎようとしていた頃になって、
「岸島くん、ちょっといいかね」
滅多に勘定方の間になど来ない土方から、珍しく声がかかった。
「どこか、そろばんの合わぬところでも、ございましたかな」
「いや、そうではない」
別室に呼ばれた。
「岸島くん、伊東先生に妙な噂があるのを知っているか」
「…もしかして、長州の件でございますか」
「君は知っていたのか」
「まだ確たる裏が掴めてませぬゆえ、調べておりますが、なかなか判然としてはおりませぬ」
岸島は有り体に答えた。