【完】『そろばん隊士』幕末編
たしかに。
河合が腹を切った表向きの理由は、使途不明の金があったことを責められての切腹である。
「つまりそれがしも、いわば尻拭いの切腹でございますか」
岸島は憮然と言った。
「仮にそれがしが何か着服をしたのであらば、腹を召すのも道理と心得ます」
しかし──と岸島は言う。
「それがしが悪事を働いたわけでもないのに腹を切らされるような、斯様に理不尽極まりなき局中であるならば、このことを逐一それがしの旧主、松平伯耆守へ申し上げねばなりませぬ」
声調子は穏やかながら、内容は明らかに恫喝である。
近藤は詰まった。
「これまでそれがしは、局中の金子について遺漏なきようつとめてまいった所存にございます」
岸島が新撰組に入隊して以来、これまで一度も金銭にまつわる案件は起きていない。
「岸島くんが清廉にして潔白であることは、よく承知しておる」
かつての屯所であった八木家の者たちなどは、
──岸島さまは、お武家に惜しい。
あれなら商家の番頭がつとまる、と言われたほど金の扱いが慎重で手堅かった。