【完】『そろばん隊士』幕末編
それだけに。
局長が金にだらしがないということは、岸島の努力を無にするのも同然の行為としか言いようがない。
「岸島くん、この通り」
近藤はガバッと床に手をついた。
「局長、ひとまずお手をお上げくだされ」
岸島にすれば近藤に土下座なんぞされても外聞が悪いだけで、何の役にも立たない。
「本来ならばおれは腹を切らねばならぬが、今それは出来ぬ。岸島くんの切腹はおれが命懸けで止めるので、どうか内聞にとどめてはもらえまいか」
岸島は内心、
(なんと手前勝手な言いぐさか)
と腹立たしかったが、ここで変な意地を立てるのも、何やら器が狭く思われたようで、
「では、土方副長にはなんと?」
と訊ねた。
「トシにはおれから話しておく。だから気にせずとも大事ない」
と岸島にすれば大事な言質を近藤は出した。
「では、疑うわけではありませぬが、覚書をいただきとうござる」
このあたりのそつのなさが岸島の面目躍如であった、と言える。