春のあなたへ
「僕褒められたことそんなにないんだ」
丁度よく風が吹いた。
「有馬さんのおかげだよ」
そして丁度よく彼の前髪を浮かした。
「ありがとう」
私の目にぎこちなく上げられた口角が映る。
頰がすこし赤い。
やっぱり前髪で隠れて見えたのは片目だけだけどそれでも彼は微笑んだ。
胸が一際大きく高鳴る。
それは全身に衝撃が来るほど大きな振動で。
体の内側からじわじわと熱が溢れ出していく。
直ぐに彼の笑みは消えてしまったけど私の熱は治ることを知らないみたい。
だから照れ隠しのように私は言ったのだ。
「那月って呼んでよ」
どういたしまして。