春のあなたへ

2

神藤晴、それが彼の名前だ。
それほど関わったことがないので彼が言った自己紹介も恐らく交わしたであろう事務的な会話もほとんど覚えていない。

ただいつも一人で席に座って本を読んでいることだけは知っていた。

どんなジャンルのものを読んでいるかは知らないけど黙々と読んでいる。

最近になって1日観察して分かったことがある。

それは神藤くんがかなりの本好きだってこと。
その日に読んでいた本は大抵次の日には読み終わって新しく図書室で借りた本に変わっているのだ。

本のタイトルは純文学であったり、英語で書かれたものであったり難しいものもあるが映画化した小説やコミカルなエッセイを読んでいるときもあった。

観察しているときも目がいってしまうのはその綺麗な手。

ページを一枚一枚めくるたびに細くて長い指が行ったり来たりする。
それを見るのは退屈ではなかったし目で追うのは楽しかった。
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