春のあなたへ

1

彼を初めて意識したのは高校に入学して3ヶ月が経った頃だった。

もっさりとした黒髪に長い前髪で見えない目。

自分から口を開いたことはなくクラスでも存在を忘れられる程地味な人だった。

でもいつも通りお昼休み後に行われる科学の授業。

その日はいつもとは違い実験をする為教室ではなく別の棟にある実験室で先生の説明を受けていた。

お弁当を食べた後に行われるこの授業、大抵の生徒は眠さに負けて突っ伏している。

先生も声を張り上げて実験の説明をしているけれど大半はもう聞いていなかった。

この実験は薬品も火も使わないものだったから皆気が緩んでいたんだと思う。

遂には教師もこんな状態で説明することはできないと諦めてしまい、各自説明不十分で実験を始めた。
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