本当はダメで、でも諦められなくて。

車中

朝5時から私の学校生活はスタートする。

5時から6時まで勉強して、その後朝食、シャワー、歯磨き、着替えと進んでいき、7時には家を出る。

星空学園は父の勤務先の途中にあるので、車で送ってもらう。その時にはお兄ちゃんも一緒だ。

私の兄、藤堂叶太はあの超エリートを育成する、T大で宇宙物理学を専攻している。

いつも優しくて、友達も多くて、頭が良くて、本当に心から尊敬できる人だ。

私が、幼かった頃、周りの小生意気な上級生にいじめられてしまった時に、お兄ちゃんは必死に私を守ってくれた。


「大丈夫。シオ(シオリの愛称)は、叶太が守るからね!」


そうやっていつも私の盾になってくれたことを今でも鮮明に覚えている。

あの頃からお兄ちゃんはかっこよくて、強かった。

今でももちろんかっこよくて強い。

じゃあ私はどうなんだろうか。


あの頃よりは、少しは強くなれたのだろうか。



「おい、シオ、シオ?」

(はっ、いけない、つい昔の思い出に浸ってしまった。)


「あ、ごめんお兄ちゃん、ちょっと考え事してたの。」


「そっか。そういえば今日は生徒総会があるんだろ。頑張れよ。」


お兄ちゃんはとびっきりの笑顔で手でピースを作って見せる。

「うん、ありがと。」


そんな言葉も少し恥ずかしくて、窓から外の景色を眺めるふりをしながら、ぎこちなく応えるだけ。


この不思議な気持ちが年頃からなのか、また、違う気持ちからなのかは、よく分からない。

だけど、最近はこの恥ずかしさの根本がなんなのか、薄々気付き始めている。

でもその感情に面と向かって前を向いてしまったら、それと同時に何かの糸がプツリと切れてしまうような気がして、いつも目を逸らしてしまう。

今日もまだ振り向けないんだ。

「シオリ、着いたぞ。早く行きなさい。」


「はい。お父さんもお仕事頑張ってね。お兄ちゃんも研究、頑張って。」


「おう、サンキュ。」


車が風のように過ぎ去っていった。


私はさっきまでの気持ちを全て地面に捨てて、即座に体の向きを変え、星空学園の門を足早にくぐった。





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