春夜の誓い
綾人はさっきの全力疾走で身体中ボロボロだ。


2人は長い下り坂をゆっくりと歩く。空の青が深みを増していく。


「来てくれてありがとう」


「おう」


千華の言葉に綾人は短く返す。


少しの沈黙の後、今度は綾人が口を開く。


「千華が電話に出なかったとき、本当に恐かった」


「うん。ごめんね」


「いや、そうじゃなくて。俺はまだ千華にいちばん大事なこと伝えてねぇのにって…」


「大事なこと?」


何のことだろうかと千華は首を傾げる。


「ガラじゃねぇと思ってずっと言えなかったんだけど」


綾人は決意したように小さく息をついて千華に向き合う。


日の暮れた静かな住宅街。


家々の温かい光が漏れる中向かい合う2人。綾人はしっかりと千華の目を見つめる。


「千華…お前は俺にとって、誰よりも何よりも大切な存在だ。ただの幼馴染みじゃなくて、1人の女の子として」


千華の目が見開かれる。


綾人は一番大切な人に自分の想いが伝わるように、優しくゆっくりと話す。


「俺は千華が好きだ。世界中の誰よりも。ずっと一緒にいてくれないか?」


その言葉を聞いて、次第に笑顔になる千華。


目にはうっすらと涙が浮かんでいる。


「私も…私もずっとあーくんが好きだった。でも、それはきっと私だけで、あーくんは違うんだって思ってた…」


桃色の頰に喜びの雫が伝う。


「私って幸せ者だね」


眉尻がさがり泣き笑いの千華を、綾人は思わず抱きしめた。


身長差でちょうど千華の頭が綾人の肩の辺りにくる。


「俺の方こそ。世界一の幸せもんだよ」


千華の耳元で囁くと、また離れて歩き出す。


「今まではっきり言えなくてごめんな」


「ううん、いいの。大好きだよあーくん」


そう言って千華が綾人の手を取る。


綾人は俺もだよと言いながらその手を握り返した。









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