【短】雨音に耳をすまして


「待てよ、美音っ」



 ショップを出ようとした所で腕を掴まれる。
 あたしはそんなことよりも、彼が言ったことに驚く。



「……なんで、名前」

「忘れちゃった?」

「は?」

「オレ、同じ高校だったの。先輩だよ?」

「……知らない」

「オレは覚えてるんだけどな」



 理久は子供のような屈託の無い笑顔を見せる。


 思わずドキッとしてしまい、慌てて目線をそらす。


 こんなふうに笑える人なんだと、理久のイメージがどんどん変わっていく。



「なんで名前まで知ってるの?」

「いっつも軽音部の部室いただろ。片隅で本読んでてさ」


 そういえば、よく本を読んでいた。

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