【短】雨音に耳をすまして
「名前は? なんで知ってたの?」
「ああ。軽音部にいる時に、美音の友達に聞いた」
「そっか」
今ではたまにしか軽音部に行っていない。
去年よりも本格的に活動をし始めて、居づらくなってしまったから。
変わって今は、この小さなCDショップに入り浸る回数が増えた。
毎日のように通っている。買うことはあまりないけれど。
「あのさ」
「なに?」
理久が言葉を探すように目線を上に向ける。
「オレ、ここで美音に会うの初めてじゃない」
「雨の日のこと?」
思い当たるのは雨の日の出来事。
理久が気づいていたとは思わなかった。
それに大した出来事ではない。
たまたま居合わせただけ。会話もせず、目を合わせることもなかった。