【短】雨音に耳をすまして
「これ、覚えてない?」
差し出されたCDを受け取り、そのジャケットを見る。
桜が散る様子が描かれていて、春に発売された曲だと思った。
――――知ってる!
あたしはそれを持っている。
有名な歌手ではないが、とても優しい声と流れるような美しい歌詞に惹かれたんだ。
お気に入りの一つ。
ラブソングだけれど、あたしはその曲が好き。
桜が散る様子と失恋とを重ね合わせたような歌が、心に響く。
「覚えてる。素敵なラブソング、歌って――」
言いかけて突然、鮮明に思い出した。
そうだ。
あたし、理久に会っていた。
手に、触れた……。