【短】雨音に耳をすまして


 違う。
 その気持ちを理解しようとしないから。初めから、距離を置いているからだ。


 人間というものを、人間の感情をまるで理解していない。


 そんなんで音楽を聴いたって、心から好きだって言えない。上っ面だけの"好き"なんて、ミュージシャンは望んでいない。



「なに、泣きそうになってんの?」

「泣いてないよ」

「そう?」



 顔を覗き込むように屈むけれど、あたしはそんな理久を見ようとはしなかった。


 うまく会話も繋がらなくて、それがまた居心地悪くて俯く。



「でもさ、雨の日のこと。覚えててくれたんだ?」

「……うん」



 空気を読んだのか、理久は話題を変える。
 気遣いが出来る大人だ。

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