【短】雨音に耳をすまして


 そんなあたしの態度が、理久を苦しめているらしく、彼は頭を抱えた。



「あなただって音楽辞めて、テニスなんかしてる。人って変わるのね」

「変わってない。テニスだって音楽だ」

「テニスが音楽?」



 意味がわからず、彼に解答を求める。


 そんなあたしが可笑しかったみたいで、軽く笑ってから答えてくれた。



「テニスってさ、プレーヤーそれぞれが音を持ってるんだ」

「音?」

「リズムってやつさ。こいつを崩されたら負ける」

「へえ」

「相手にオレの音楽を聴かせてやるんだ。だから、音楽が嫌いになったわけじゃない。オレは外にある音を求めるようになっただけ」

< 25 / 34 >

この作品をシェア

pagetop