【短】雨音に耳をすまして


「返事を聞かせろってことじゃない。言いたかっただけだから。でも、また会えたら嬉しい」



 そう言い残して、CDを譲ってくれたあの日のように、微笑んで手を振って歩き出す。


 雨が降っているにも関わらず外に出る。
 地面に落ちた雨粒が跳ね返るほどの雨の中を平気で歩き出した。


 いいの?
 これで、本当にいいの?


 迷いがあたしを支配する。


 このまま、行かせてしまったら。次に会えるのはいつかわからない。


 素敵な音を持った理久に、二度と会えないかもしれない。


 こんなあたしを好きだと言ってくれた彼に――。

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