【短】雨音に耳をすまして


 一枚千円以上するものをわざわざ棚がかさばると知っていて買う。それはもう、こだわりかもしれない。


 ダウンロードなんてものは、手軽で何となくで聴いてしまう。でも、わざわざ店に行ってCDを買う。


 それは、本当に好きだから出来ること。
 好きなものがあれば、なんだけど。



「全然、心に響かない」

「ふうん。そうかな」



 いつの間にか背後に立っていて、あたしの言葉に異議を唱える男性。
 おまけに振り返って落としそうになったヘッドホンを奪い取る。



「ちょっと!」



 取り返そうとするが、背が高くて届かない。彼は悠々と右耳だけにあてて音楽を聴き始める。


 しばらくして、ヘッドホンを元に戻して首を傾げる。



「なにがダメなわけ? 普通のラブバラードだろ」

「関係ないでしょ」

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