【短】雨音に耳をすまして


 目の前に立つ男性を見上げる。


 大学生らしく、日に焼けた肌にポロシャツという格好を見るとテニス部にでもいるのかと想像してしまう。


 どこにでもいるような普通の大学生。
 恰好いいわけじゃない、平凡な人。


 この辺りには、二つの大学がある。そのどちらかの学生だろうと予想する。



「なに」



 そんなあたしの視線に気づいた彼が、怪訝な顔をした。



「別に」



 少し、思い出しただけ。
 まさか話しかけてくるなんて思わなかったから。


 そんなこと素直に言えるわけないけど、なんだか気まずくなって目を逸らす。


 去年の夏――。
 彼との出会いは、雨。
 そして仲間かもしれないっていう期待だった。

< 6 / 34 >

この作品をシェア

pagetop