【短】雨音に耳をすまして


 深いため息をつくと、一人の男性が慌てて入ってきた。雨宿りに来たらしく、中に入ると濡れた靴を足元のマットで擦る。


 それが彼だった。


 特に会話を交わしたわけではない。
 あまり人の来ない行きつけのCDショップに、見ない顔が来たものだから覚えていた。


 ただ、それだけのこと。


 濡れた髪を無造作に掻き上げ、落ちてきた雫を振り払う。濡れて張り付いたポロシャツはお構い無し。


 落ち着くと、彼はCDを見始めた。


 その動きが何となく慣れているように感じて、彼もCDを買う派だったら嬉しいな、なんて期待してしまった。


 言えはしなかったけど、心が温かくなるような気がした。

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