東の空の金星
苦しい。

大和さんは優しいけれど。

私が望むものは与えてくれない。


最近気づくと、ため息が増えている気がする。

「ねー。シマちゃん。どうしたの?ため息ついて。」と、三島先生が私の顔を覗く。

「なんでもありません。」

「いや、嘘だね。誰かに振られちゃった?」と楽しそうに聞いてくる。

振られる以前の問題ですが…

大和さんは私を女として見ていない。



「余計なお世話ですよ。」

「僕が慰めてあげるよ。
とりあえず、環境を変えてみたら?
僕と付き合うとか、僕と一緒に暮らすとか
…せめてここから出る。とか?」

と私が大和さんとの関係に悩んでるって気づいているんだろう。

…嬉しそうで気に入らない。


「先生、異動とかどうなってるんですか?」と顔をしかめて聞いてやると

「3月の半ばで異動。
あの病院とも、
病院の目の前で呼び出されっぱなしだったマンションともお別れだ。
シマちゃん、一緒に東京に引っ越そう。」

マスターは
「三島先生。
デートしよう。から急に具体的だね。
付き合うとか一緒に暮らすとか一緒に東京に引っ越す。とか?
うちのパン職人を引き抜かないでよ。」と機嫌の悪い顔をする。

「もう、僕には時間がないもん。
シマちゃん、振り向かない人のことは諦めたら?」

「先生もね。」

「ひでえ。」

「誤解すさせるような事は言わないって優しくしないのも、愛情でしょ。」

と私が言うと、

「シマちゃんのそこが好き。」と三島先生は微笑む。


「メンドクセー。」

とマスターが呆れ、周囲の常連さんがクスクス笑う。


やれやれ。

でも、もう、私は辛いんだよ。
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