東の空の金星
「僕ねえ。確認したいことがあるんだ。」

とマンションのエントランスを出ながら私の顔を見て、微笑む。

「手を離してください。帰れないでしょ。」と睨むと、

「うん。」と言って、荷物を手から離して、私を急に抱きしめる。

トートバッグが階段を転がって落ちていく。

「こっ、コラ、襲わないって、」

「もう部屋じゃないよ。お別れのキスぐらいいいでしょ」としっかり唇を重ねて来る。

私の開いた唇に躊躇なく、柔らかい舌を滑り込ませてくる。

お互い目を見開いたままのキス。三島先生は少し笑っている。

私は驚いて、動けない。

ちょっと、何やってるの?と思う自分と、

やっぱり、結構キスが上手い。とか一瞬思ってしまう自分がいる。


「シマちゃん、好きだよ。」と唇を離して囁いてもう一度ゆっくり唇を重ねようとした時、

「三島、止めろ。」

と私の後ろから声がして、

身体ごと後ろに引っ張られ、ドン、とぶつかって止まる。

私を自分の胸に抱き寄せたのは大和さんだ。

後ろから聞こえた声ですぐにわかった。


振り向くと、ものすごく怖い顔をしている。

「シマ、帰るぞ。」と言って私を子どものように抱き上げる。

ちょっと!足が浮き上がってますけど…

階段を音を鳴らして降りていく。



「藤原さん、それが答えなんじゃないの?」

と階段の上で三島さんが笑って声をかけていたけど、

大和さんは立ち止まらない。

なんの話?





「あ、あの…」

とちょっと声を出すけど、

私の手を握って振り返らずに前を見てズンズン歩いていくので、

私は小走りになって転ばないように坂道を登る。

…トートバッグ、置いて来ちゃったな。

と私はちょっと思いだしていた。
< 109 / 189 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop