東の空の金星
そんな騒ぎがあった後、

大和さんが遥香さんを送りながら出勤し、

私とマスターは「凪」を開店した。


「面白がってますか?」と顔をしかめて、マスターに聞くと、

「うん。楽しいよ。
先輩がシマちゃんに振り回されて、
感情を表に出すようになったから…。
桜子さんが亡くなって、シマちゃんが来るまでは
先輩あんまり笑ったり、怒ったりしなくなってたから…」

「…振り回しているつもりはないんですが…。」

「シマちゃんはそのままでいいんだよ。
先輩がシマちゃんを好きになって右往左往しているだけなんだから…。」
とニッコリ笑って、出汁の味を確認した。


そう…なのかなあ。

でも、結婚か。

一緒にいたいって思ってたけど…

大和さんとすぐに結婚すると思ってなかったな。

とぼんやり考える。


「いらっしゃいませ。」と言うマスターの声で我に帰る。

…三島先生だ。

「やあ、シマちゃん、あの後、藤原さんと上手くいっちゃった?」
と私に微笑みかけながら、トートバッグを私に手渡した。

「…おかげさまで…」と赤くなって俯くと、

「そうか。バッグを取りに来なかったから、
そういう事だろうなって思ってた。」とクスクス笑った。

「なんで藤原さんに電話したんですか?」

「うーん。僕もいつまでも、シマちゃんを引きずる訳にいかなかったしね。
あの人はシマちゃんの事を考えて、
自分の気持ちを抑えているのはなんとなくわかってたから、
背中を押してあげただけ。
あそこで来なければ、シマちゃんに、望みはないから、
本気で、口説き落とそうっていう事も考えてた。
でも、やっぱりダメだったなあ。
まあ、いいよ。
シマちゃんと、お別れのキスもできたから。」と微笑んだ。

「えっ?先生、シマちゃんとキスしたの?」とマスターが驚いた声を出す。
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