東の空の金星
声が大きいって!

近くにいたお客様が振り返る。

「でもねー。お別れのキスだよ。
シマちゃんはここのオーナーと結婚するから。」

とくっきり笑顔を見せて、周りに聞こえるように答えるので、
少し驚く声が周りから聞こえて来る

「…まだ結婚しないけど…」

「するでしょう。僕が藤原さんだったらサッサと結婚する。
シマちゃん可愛いし、少しでも僕みたいな狼から遠ざけたいでしょ。
指輪をつけさせて、キスマークもつけておく。」と私の首の後ろを指差す。

私は慌てて首の後ろを押さえ、顔が赤くなるのがわかる。

「せんせー。俺が黙ってたのになんでいうのさ。」とマスターが笑う。

「だって、意地悪したくなるでしょ。
…あんなものつけて働いてたら。」と三島先生はクスクス笑った。

…大和さんたら、なんて事してるんだ!
厳重に抗議しておかなければ…と心に誓っていると、

「シマちゃん、幸せになってね。僕を振ったんだから。」
と真面目な顔で言われたので、

「もう、幸せですけど。」と三島先生に大きな笑顔を見せておく。



「やっぱりシマちゃんはひどいオンナだった。」とか言ってカウンターに伏せた先生に
「先生頑張って。」とか可愛い女の子に声をかけられると、
「じゃあ、一緒にご飯行かない?」
と王子の笑顔で誘っている先生は
やっぱり、困ったオトコだってなんだかおかしい。

「ここでナンパはご遠慮ください。」とマスターが三島先生に注意していて、
いつも通りの店の雰囲気に戻っていく。



私と三島先生の物語はこれでおしまいだ。
お互い違う物語の新しいページが開かれていく。

そう思って、窓の外の春の兆し(きざし)がある海を眺めた。
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