東の空の金星
その夜。

大和さんは私が眠る時間に慌てて帰ってきて、

「シマ、一緒のベッドに寝てもいいかな。」と真面目な顔で聞いた。

「どうぞ。私は眠ると朝まで起きないと思うけど…」

「それはいいんだよ。ちゃんと眠って欲しいから…。」

「…結婚についてはちゃんと考えます。」と言うと、

「ちゃんと夫婦になりたい。一緒にいるだけじゃなくて…」

と大和さんが言うので、私はうなずき、自分の部屋に入った。


布団に入ると、すぐに眠りがやって来るのはいつもの事だ。

結構、毎日疲れているし、今は悩んでいる事もない。


結婚については…私の覚悟が決まればいいだけだし…

少しだけ、時間が欲しかった。

不思議の国のアリスのように穴に落ちてしまった気分なだけで…

結婚って…階段を降りるように段階を踏んでいくのだって想像していたんだけど、

真っ逆さまに結婚に向かって落ちていっているような気がする。

大和さんを愛している事実は変わらないけれど、

ほんの少しだけ待って欲しい。


浅い眠りの中で、大和さんが私を抱き寄せる気配がする。

私の瞼に、頬に、唇にそっとくちづけをして

「シマ、愛してる。」と呟いて深く抱きしめる。

私は安心して、大和さんはの腕の中で深い眠りに落ちていった。
< 126 / 189 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop