東の空の金星
3月半ば。

もう春だ。温かい海風が吹いて来る。


三島先生のは私に何も言わずに引っ越して行ってしまった。

まあ、お互いもう、何も話すことはなかったし…。

引っ越しを終えてから、店に電話が来て、

「元気で。」とだけマスターに伝言を頼んでいた。

「さみしい?」とマスターに聞かれ、

「あの軽~いお喋りが聞こえないと、少し残念かな。」と笑うと、

「俺も残念。毎週のようにやって来てたからね。」

とふたりで笑いあって、開店準備を始めた。



大和さんと私は周りの勢いに押され気味で結婚に向かっている。

先週の週末には突然、大和さんのご両親がやって来ることになって

私がパンを焼き、芳江さんが他の料理を作ってお昼を一緒に食べたんだけど、

「なかなか紹介されないから押しかけてきちゃいました。」
とお義母さんは言って笑い、

「俺の邪魔をしてるんじゃないかな。」

と機嫌の悪い大和さんをなだめるのに苦労してしまった。

でも、出来るビジネスマン風のお義父さんと
天然っぽいお義母さんの取り合わせはお話も楽しく、
大和さんを愛しているのはよくわかって、
私もご両親がどんな人達なのか、少しわかって良かったかな。

大和さんは私に
「気の早い両親でごめん。」と何度も言ったけれど、

「私のことも知ってもらえて良かったです。
パンしか焼けない小娘だって。」と笑うと、

「うちの両親はシマの事をすごく良い子だって
明るくて、真っ直ぐ見てくれるって気に入ってたよ。
でも、俺の方が心配だろ。
シマの家族に気に入られる気がしない。」とため息をついた。
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