東の空の金星
10月。

シマにオートバイで迎えに来て欲しいと

三島と一緒だと言われ、

頭を血がのぼる。


…なんで一緒にいる?



思わず、「オートバイには、乗らない。」と迎えになんかいくかと思ってしまう。

シマは悲しそうな、心細そうな小さな声で

「ちゃんと断って帰ります。」と言って電話を切った。


こら、なぜすぐに電話を切る?!

俺は部屋の中をグルグル歩き回り、

諦めて電話をかけ直す事にした。

シマの小さな声が気になる。

俺はシマから伸ばして来た手を振り払う事なんかできやしない。



なぜなら…


そんな事はとっくに分かっている。



俺はシマの事を

すっかり好きになってしまったからだ。

安心しきって見上げてくる大きな瞳を、

真剣にパンを焼く表情を

なんでも美味しそうにたべるその唇を

そっと髪を梳いてくれたその指先を





シマが俺を男として見ていなくても、

そんな事は関係ない。


シマがオートバイで迎えに来て欲しいとそう望んでいるのなら

ひとりになった事実と向き合わなければならないと、
避けていたオートバイにも乗れる。

そう思った。



なのに、なぜ電話に出ない。

どこにいるのか言ってから電話を切れば、

すぐに迎えに行けたのに…
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