東の空の金星
温泉の帰り。

シマはすっかり、助手席で眠っている。
カクカク揺れる細い首が後から痛くなりそうだ。

俺は決心して、
道の路側帯に車を停め、身を乗り出して、そうっと
車のシートを少し倒す。

よかった、目が覚めなかった。


…本当によかったのか?

眠っているシマの顔を長い間眺めた。

少し開いた唇を人差し指で撫でてみる。

今、起きないと、マズイぞシマ。

他の男だったら、襲われる。


と思った自分がおかしい。

1番危ないのは俺か。

俺は目が覚めませんように。と心の中で呟いて、
シマの額の髪を指でかきあげ、
唇をそうっとつけた。

シマは気持ちよさそうに寝息をたてている。

うーん。

こんなに安心されても、困るな。

と微笑み、ウィンカーをだす。



…今のはなかった事にしておける。



俺は少し残念な気持ちで、車を発進させた。
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