東の空の金星
店の電話が鳴っている。

俺は鳴り止まない電話が気になり、受話器をあげる。


「いたね~。藤原さん。今ねえ、シマちゃんが俺の部屋にいるんだ。
まあ、これから帰るんだけど、キスぐらいはしてもいいかなって思って。」

俺の嫌いな三島が楽しそうな声を出す。


「シマは君と付き合っていないはずだが…」

「嫌だなあ。キスは付き合ってる人とだけするんじゃないよね。
これから付き合いたい人ともするもんだと思うけど…」

「…」

…コイツは俺に喧嘩売ってるのか?



「藤原さんってシマちゃんの事ってどうおもってるんだろう?
俺はシマちゃんが好きだから、キスするよ。
後のことは考えない。誰かさんと違って…
じゃあ、病院の前のマンションって知ってるでしょ。
止めたきゃ、今すぐ来たら」と電話が切れた。


俺は弾かれたように靴を履くのももどかしく家を飛び出す。

坂道を必死に駆け下りる。

俺のシマに触るな!

いや、俺のじゃないかもしれないが…

触るんじゃねー!


マンションが見える角を曲がると、
マンションの階段の上で、たった今抱きしめられたシマが見える。

バッグが転がって階段を落ちてくる。

あの男がシマの頭を抱えてキスをしている。

触るな!

俺の大事なオンナだ。

階段を駆け上がってシマの身体を引き離して、そのまま持ち上げて階段を降りる。


怒りで声も出ず、

シマの手を掴んで振り返らずに家に戻る。

「藤原さん、それが答えなんじゃないの?」と言う声が聞こえる。


わかってる。

俺はもう、シマを誰にも渡せないぐらい愛してる。

桜子が心の中にいるとしても…

そんな事はとっくに分かっているんだ。

でも…
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