東の空の金星
少し晴れやかな気分になりたくて選んだ
デニムに合わせた桜色のセーターが憂鬱な気分だ。

青い空に似合う桜色のセーターをベージュのコートで包んで隠し、
賑やかな通りを抜け、
ひとがいない道を選んで歩く。

どこをどう歩いたのかわからない。
静かな住宅街の坂をムキになって息を弾ませ、
登りきったところに
大きな桜の木が枝を広げて
美しく咲き誇っていた。

「大きな桜。」

ポツンと呟いて、桜を見上げる。

風に吹かれて桜の花びらがヒラヒラと舞う。

綺麗ね。
誰が見ているわけでもないのに…
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