東の空の金星
桜の季節。

私は同棲していた男と別れ、
その男と同じパン職人として勤めていた都内のベーカリーも3月の終わりで辞め、
(だって、オトコの相手はそこで働く大学生のアルバイトの販売員だったし…)
部屋を出る事に決め、

突然のんびりとした広い海が見たくなって鎌倉駅前のホテルに大きなトランクを置き、
身軽になってその海辺に立っていた。

五十嵐 いずみ(いがらしいずみ)26歳、

全てを失った気分で、ゆっくり波打ち際を歩く。

まあ、大袈裟か。

うーん。

…なにもかも、無くしても、お腹は減るんだなあ。

お昼の時間だ。

同棲していた男は
新しい女の部屋に行ったままになっていて
私だけがいたあの部屋を、朝早く出て来たから…

朝から何にも食べていなかった。

< 2 / 189 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop