東の空の金星
作業台に焼けたクロワッサンを並べて、焼け具合や香りを確かめ
ひとつ取り上げ、半分に割って中身を確認していると、

「パン屋みたいだ。いい匂いで目が覚めた。」とオーナーが起きてきた。

…今日からパン屋ですけど…とちぎったパンを口に入れながら振り向くと

「俺も食う。」と私の顔を見るので

「味見しているだけです。」とちぎった半分を渡すと、

「美味いパンだ。塩が付いてる。始めて食べたな。」と感心した声を出す。

さっきよりマトモでちょっと安心する。

「プレッツェルクロワッサンです。塩は岩塩の粒。
私は朝食にしますが、オーナーも食べますか?」と顔を見上げると、

「ちょっと待て。顔を洗ってくる。」と笑って

控え室のドアを開けた後に、
更に部屋の中の奥にあったドアを開け、階段を上がる音がする。

奥のドアって倉庫か何かだと思ってた。


なるほど、
プライベートスペースはここから入るのかと

控え室の奥の開いたままのドアを覗き見る。


オーナーの笑顔は
目尻のシワが年齢を感じさせるけれど、
切れ長の瞳は印象的だ。

若い時は案外イイオココだったのかもしれない。

と思いながらコーヒーを新しく淹れる事にした。
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