東の空の金星
キッチンを磨き上げ、
パンに清潔な布巾をかけて、
私は陽の当たる窓際の席で机に伏せて目を閉じる。

初めてのキッチンにしてはうまく焼けたと思う。

変人のオーナーとしっかりしたお母さんみたいな芳江さん。

私の新しい生活の登場人物だ。


私はオーナーがパンをパクパク食べて、
お腹が風船のように膨らんで空に浮かんでしまいそうになるのを
足首に紐を結んで桜の木に繋いでおく夢を見た。

オーナーはパンを食べ過ぎるので、こんな夢を見たのかもしれない。

うなされてぽっかり目が覚めた。

あと30分でマスターの来る時間だ。


私は従業員控え室で白いシャツと黒いズボンを履き、

薄く化粧をし、身支度を整えた。
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