東の空の金星
「シマちゃん、桜子は私の大切な友人だった。
桜子の病気がわかって、ここに家を建ててカフェを開くって言いだした時、
一緒に過ごしたくて、この店を手伝った。
ついでに、ここで夫も見つけちゃったけどね。」と遥香さんは笑ってから

「この部屋が役に立つ時が来て良かったわ。
シマちゃん。この部屋は使えない?
桜子はここで亡くなったわけじゃないわ。
最期は病院にいたから。
…化けてでないと思う。」と私の顔を覗いた。

「亡くなった後、一度ここに帰ってきただろ。
でも、化けては出ないな。
桜の花になったはずだから…」とマスターが口を出す。

「おまえら、桜子が化けて出るって、前提で話してないか?」とオーナーが苦笑する。

「シマちゃん、大丈夫よ。
ずっと桜子は『死んだら、天国には行かないで桜の花になる。』って
私達に言ってたから。」

「…だから、この間、この木に話しかけていたんですね。」

と思わず、外の桜の木を見て私がオーナーに聞くと、
マスターが後ろから、

「この木じゃなくて、桜の花だよ。
毎年、桜の花が咲いたら、会いに来るとみんなに約束したんだ。
他の季節はどこかの木の中で眠るんだって…
まあ、桜子さんらしい、気の使い方だよね。
いつもはどこにいるかわからないから、思い出さなくていい。って言ってたな。」

と、懐かしむ様な声で言った。

オーナーの奥様は素敵なひとだったようだ。


「…シマには、関係ない昔話だ。
事情のある、事故物件みたいなモノだし、
家賃はいらないから、ここに住んで仕事をしてくれないか?」

とオーナーは私の顔を見て言った。
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