東の空の金星
そして…

更に年上の芳江さんには
オーナーも逆らうことができない。


「夕飯は2階のキッチンでふたり分用意して
シマさんの分は店の冷蔵庫に入れておきます。
良いですよね。
きっと、生活の時間が違うのでしょうから、
夕飯を一緒に取る機会はあまりないのかもしれませんけど…
大和さんは水曜日は定時退勤日だったはずです。
一緒に夕飯を食べてください。」

と私が引越しの日に手伝いながら、そう言って、

驚く私達に
「わかりましたね。」と念を押してコクコクうなずかせた。

「俺、芳江さんによわいんだよねえ。
…芳江さんって昔、実家にいたお手伝いさんで、
桜子の病気がわかって、この家を建てた時、
ベテランの芳江さんにここにきてもらうようにしたんだよ。
桜子の事も、大切にしてもらってたからさあ…」

とオーナーは後で私に言って、

水曜日は早く帰って私と夕飯も一緒に店のテーブルで食べるようになって、

鉄板焼きやお鍋やすき焼きなんかの時には
マスター夫婦も芳江さんに一緒に食事をしていくよう勧められて
4人で食事をしたりするようになった。


やれやれ。

他の仕事先を考えた方が良いかしら?

でも、

ここで出会って、
仲良くなってしまった人達ともう少し、
一緒にいたいと思う自分もいるのだ。

遥香さんの産まれてくる赤ちゃんにも会いたいし、
マスターが丁寧につくるお蕎麦も、人懐こい人柄も、好ましいし、


明け方の金星がよく見えるこの店も気に入っている。

あの困ったオーナーでさえも…

…嫌いになれないと思っているのだ。
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