東の空の金星
私は急いで身支度を整え、薄く化粧をしてから、店に行くと、

店の右側の厨房で芳江さんがお味噌汁をよそっていたところだった。

「おはようございます。」

「もう、お昼を過ぎたところですよ。」とお小言がある。

「…ハイ。」と肩をすくめて手伝いに入る。

オーナーはテーブルに座って新聞を読んでいる。

…お父さんみたいだ。
新聞が似合う。

「オーナー、老眼鏡はいらないんですか?」と私がお味噌汁のお椀を置くと、

「年寄り扱いするな。」と顔をしかめて新聞を閉じた。


大きなお重にグリンピースご飯と野菜の煮物とそら豆と長ネギのかき揚げ。

芳江さんのご飯はとても美味しい。

「おいしー。」と私が豆ご飯を頬張ると、

「ほっぺたリスみたいになってるぞ。」とオーナーは私の顔を見てくすんと笑う。

いいじゃないか。
豆ご飯を満喫しているんだから。

と私はジロリとオーナーを見てから食事を続けた。

「シマさんはお料理はしないんですか?」と芳江さんに聞かれ、

「そうですねえ、
パンを焼くのにほとんど気力と体力を使っているので、
作っても、カレーとかスパゲティとか…
直ぐにできあがるものです。」

「もう、26歳でしょう。お嫁に行くのにそれでは困りませんか?」

「まあ…予定が出来たら頑張ろうかなあ。」

「そういえば…シマには恋人はいないのか?
ここに住み込んでまずかったんじゃないか?」とオーナーが気付いたように言う。

「今更ですか?
恋人がいたらここに住まないでしょう。
余計なお世話です。」と口を尖らせると、

「…そうだな。」

とオーナーは下を向いて笑ってから、ビールを飲み、美味しそうにかき揚げを食べた。


…オーナーって

アホだな。

幾ら何でも、恋人がいたら、

男1人で住んでる家に住まないって!
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