東の空の金星
「シマは実家はどこ?」と海沿いをのんびり歩きながらオーナーが聞く

「長野です。旧軽井沢の外れで昔からパン屋をやっています。
主に別荘地に住む人達や、ご近所さんたちがお客様です。
まあ、夏は観光客も多いですけど…
バケットや雑穀を使ったハードパンや
イギリスパンって呼ばれるモノが多く作っていますね。
父は亡くなっていますけど、
年の離れた兄2人が店を引き継いでいます。
母も店に出てますね。
兄の家族たちと、仲良く喧嘩しながら。って感じでしょうか?」


「賑やかなそうだな。」

「ものすごーく。」

と顔をしかめてと言うと、

オーナーは笑顔を見せる。


「オーナーはずっと鎌倉ですか?」

「そう。大学の時は、都内に住んだけど、
後はずっとここだよ。
なんでかな?
他に行きたいところがなかったからかな。
友達も、ここにいるし、鎌倉は自然も多いし、海のそばは落ち着くかな。」

「ふうん。
奥さんともここで知り合ったんですか?」

「…もう、11年前だな。
桜が咲いている時期にあったんだ。
結婚生活は5年間だったけど楽しかった。」

「奥さん、幸せですね。今でも楽しく思い出してもらえてる。」

「…どうかな。だといいけど。」と少し立ち止まって海をみた。


私も立ち止まり、

「幸せだったに決まってますよ。」とオーナーを見上げてみる。

オーナーは私の瞳に笑いかけてまた、歩き出した。
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