東の空の金星
食事が終わった頃、お茶を持って行くと、
「すごく美味しいね。
僕は去年の春からここに来てるんだけど、その前は都内の大学病院にいて、
そこの教授が有名なパン好きだったから、
差し入れとかで、美味いパンって結構食べてるんだけど
これってこの辺じゃ食べられないすごくちゃんとしたパンだよね。」

と三島先生が驚いている。

いや、それは褒めすぎだと思うけど…

「シマちゃんはAsai Bekeryの職人さんだったんですよ。」とマスターが口を出す。

「へえ、食べたことあるな。このクロワッサンは出してなかったよね」

「はい。ドイツで習ったものです。」

「見かけによらず、シマちゃんって本格的なんだね。」

まあ、私は子どもに見えるか…

「実家がパン屋だったので。」


「なるほどねー。
マスター、凄いの雇ったね。
これから、シマちゃんのパンを目当てのお客さんも増えそうだ。
僕も通おうかな。」

と私の瞳を覗き込む。

「ありがとうございます」

とだけ、言っておく。
だって、女の子達の視線が痛いし…


王子、そんなに見つめるのはやめてください。

心の中で言って

すぐに席を離れた。
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