東の空の金星
翌朝、私がパンを焼いていると、

「シマ、余計な仕事をさせて悪かったな。
小泉院長に無理を言われたんだろう。」と大和さんが顔を出す。

「余計な仕事じゃあ、ありませんよ。
営業活動です。
奥様に気に入っていただければ、
お友達と利用していただけるじゃないですか。」

「おお。シマ、積極的。営業部長にしてやろうか?」とくすんと笑う。

「笑い事じゃありませんよ。
ここが潰れたら、私はまた、仕事を探さねばなりません。」

「え?売り上げ悪いって聞いてないけど?」

「悪くありませんが、私はここが気に入っているんです。
好きなパンだけ焼いていればいいし、
土、日曜お休みなんて、パン屋にはありません。
儲かっていなければ困ります。」と怒った顔を見せておいた。

「じゃ、俺はまた、寝て待ってる。
今日も『茶色い月』が食えるんでしょ。」と控え室に入っていく。

…呑気なオーナーだ。

また、自腹の高級なバターが消費されたと言うのに…
自分の出費については、
ちっともわかっていない様子だ。
< 57 / 189 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop