東の空の金星
水族館は人が溢れている。

私と大和さんは館内をゆっくり歩いて見て回る。

「すごい、魚の群れ。」と大きなガラスの水槽を見上げると、

「シマ、口開いてる。」と大和さんがクスクス笑う。

「いいじゃないですか。」と顔を赤くして、睨むと、

「シマは見ていて飽きないな。
パンを作ってるときは、魔法の手。と思って、関心して見てるのに、
メシを食ったり、口開いて魚を見上げてる所はまるきり子どもだ。」と私に笑いかける。

「大和さんだって、決してオトナって訳じゃないでしょ。
パンをニコニコ食べてる顔はまるきり子どもだって
思ってますけど。
今日だって、芳江さんにおとなしく追い出されてたし…。」と顔をしかめると、

「だって、芳江さん怖いだろう?」

「…そうですね。逆らったら、
お仕置きされそうです。」

「どんな?」

「…押入れに入れられる…とか?」大和さんは顔を背けプッと吹き出す。

「シマは小さい頃、お仕置きに押し売れに入れられたタイプ?」

「まあ、年の離れた兄がいたので、喧嘩して、
兄達は私に手を出すわけにはいかなかったようで、
押入れによく入れられました。」

「で?」

「で。兄達は私を押入れに入れたのを忘れちゃって遊びに行っちゃうんですよ。
酷いでしょう。
両親はパン屋で働いてるし…長い時間入れられてたなあ。
でもそのうち、
兄達が使う押入れは決まった場所だったので、
懐中電灯や、好きな本やマンガを入れておいて、
押入れに入れられた時はのんびりする事にしてました。」

「シマはたくましいな。」

「末っ子の知恵です。」と微笑むと

「シマといれば、芳江さんに押入れに入れられても楽しそうだ。」

と大和さんは私の顔を覗く。

「…マンガも用意します。」と私も一緒に笑った。
< 63 / 189 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop